株式会社 大空出版
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2021.03.25
『オンライン授業で大学が変わる』出版記念シンポジウムを開催しました
3月25日、『オンライン授業で大学が変わる』の出版にともない、徳永達己氏(拓殖大学教授)、武田晋一氏(拓殖大学准教授)、杉山歩氏(山梨県立大学准教授)の3名を招き、20名の学生が参加するシンポジウムを開催しました。
シンポジウムには大学・専門学校に通う現役学生、および大空出版のジャカルタ支局でインターンシップに参加している現地学生を含む20名ほどが参加し、オンライン授業にまつわる4つのテーマをめぐって活発な議論が行われました。
テーマは以下のとおりです。
Q1.現在のオンライン授業に満足しているか。質の良いオンライン授業とは
Q2.オンライン授業でカメラをONにする意義とは
Q3.本当に学生は「課題地獄」と呼ばれる状況に陥っているのか
Q4.オンライン授業に適した授業形式とは
いずれも事前に学生95名にアンケートを取り、まとめたデータをもとに議論が進められました。それぞれのテーマで参加者から出た意見は次のようなものでした。
Q1.現在のオンライン授業に満足しているか。質の良いオンライン授業とは
A1.授業によってギャップがある。教員の準備の差がそのまま出ている部分も。オンデマンド授業は時間と場所を限定されず授業に参加でき、授業の形態によっては利点となりうる。
【学生】
・実際に受けた授業でも、教師によって質はバラバラだった。オンライン会議ツールをどれくらい使いこなしているかがカギ。
・オンライン授業では大学の授業に求めていたものが得られていないと感じている。
・場所を問わず参加したい授業に出席できるのは利点。
・一度で理解できなかった部分を繰り返し見られるので、オンデマンド映像の授業は効率が良いと思う。
【教員】
・教員自身のICTに対する理解度に加え、授業内容がオンライン授業に適しているかで質は変わる。
・オンライン授業の導入にあたり新学期のスタートが遅れた大学もあった。それはオンライン授業ベースで従来のシラバスがどこまで実現できるかを探るために必要な期間だった。
・ICTに疎い教員でも、興味を持って自発的に準備をした人はオンライン授業になじめていた。教員間の対応力の差が如実に出てしまっている。
Q2.オンライン授業でカメラをONにする意義はあるのか
A2.ONにする方が講義の効果は上がると考えられる。ただ大勢の視線を意識してしまうことで、授業に集中できなくなる学生も一定数いる。
【学生】
・教員からカメラをONにするよう指示されていたが、出席者の半数以上はOFFのまま授業を受けていた。
・カメラをONにした方が失礼が無いように思うし、授業に必要なコミュニケーションを取りやすいと思う。
・自分はカメラをOFFにしたい派。常に誰かの目にさらされているので、気を抜ける瞬間がなくて授業に集中できない。
【教員】
・自分の授業は「カメラON必須」。すると角度を変えて、頭のてっぺんだけを映す生徒が現れた。「恥ずかしい」という理由よりも、「手元でスマホをいじっているのが視線でバレないように」という理由が大きいようだ。
・オンライン授業の導入にあたり新学期のスタートが遅れた大学もあった。それはオンライン授業ベースで従来のシラバスがどこまで実現できるかを探るために必要な期間だった。
・カメラOFFでは講義の効果が目減りしてしまうと感じる。
Q3.本当に学生は「課題地獄」と呼ばれる状況に陥っているのか
A3.オンライン授業開始以前に比べて増えたことは確か。課題のタイミングが重なると学生が大変になるのも間違いない。その一方で、元々日本の学生は勉強に割く時間が少ないという事実もある。学修時間が増えたことで「ようやくノーマルなラインに到達した」と見ることもできるだろう。
【学生】
・後期は実習授業が多かったが、オンライン授業だからといって課題に追われるようなことはなかった。
・課題が増えたのは間違いない。特にオンデマンド授業は出欠確認の代わりにレポートの提出が求められることが増えた。
・「地獄」というほどではないが、オンライン授業が始まる以前より多くなったことは確実。
・大学ではレポート課題が多い。基本的には毎週提出する必要があるもの。時間を作ってまとめてこなしている。日に2~3時間ほど時間を費やしている。
【教員】
・自分は元々課題が多めだったが、むしろ課題を減らした。周りの今まで課題を出していなかった先生方が課題を出すようになったため。
・教員としては、1週間に20~10時間くらいは勉強してほしい。
・教員も大学に集まらないため、誰がどのくらい課題を出しているか共有されないから、量が膨大になってしまうのだろう。
・元々起こりえた問題が、オンラインになり教師も生徒もコミュニケーションが取れなくなったことで顕在化してしまった。
・自分は課題が多い方だと思うが、そもそも日本の大学生は勉強時間が不足している。
・「1週間で10時間も!」と言うが、日に1~2時間程度に過ぎない。これは諸外国の学生と比べても顕著に低い。
Q4.オンライン授業に適した授業形式とは
A4.一般教養、基礎知識などの座学はオンライン授業・オンデマンド配信に合っている。実習やディスカッションなど、教員と学生のコミュニケーションが重視される授業はオフラインが良い。オンライン授業に使うツールやソフトウェアの発達によって解消されていく部分もあるだろう。
【学生】
・デザインソフトを使って実習を行うが、使い方を後からYouTubeのアーカイブで見られるのはオンライン授業の利点だと思う。基本的には登校した方が学べることは多いと感じる。
・オンライン授業も受けたが、良いところがあまりないと感じる。特に実技の授業は対面で教えてもらうのが一番良い。
・東京デザイナー学院は実技の授業が9割なので、直接先生に見てもらって指摘を受ける形式がベスト。
・ブレークアウトルームでのディスカッションは苦手。振り分けられた相手がカメラとマイクどちらもOFFだったりする。打ち解けにくい。何を話し合えばいいのか……という気持ちになる。
・オンデマンド配信は座学には向いているが、実習にはどうしても合わないと思う。
・大学に行くことで、友人と作品を見せあい感想を言い合う機会が生まれる。他人の作品からインスピレーションを受けることもある。そういった機会が、オンライン授業では一切ない。
・大教室での「教師から学生に知識を渡す」ような授業はオンラインで全く問題ないと思う。
・まだ答えが出ていない問題について、議論を交わすことが目的の授業はダイレクトな方がいい。
・対面でのディスカッション授業なら、メインの議論を聞く間にも隣同士で「ああ言ってるけどこうじゃない?」「こういうこと?」のような会話ができる。そこから生まれる発想もある。そういった散発的な議論が生まれないのは、オンライン授業の限界なのではないか。
【教員】
・オンライン化できる授業はどんどんしていけばいい。
・同じ授業をオンライン・オフライン双方で行うのではなく、役割を棲み分けることが大事。
・YouTubeを見れば十分な内容は予習しておき、オフライン授業ではそれを受けたディスカッションを行うといったこと。
・「オンライン授業はつながりが保てない」というが、対面授業でも、大教室でやる授業ではそもそも生徒とのコミュニケーションは重視されていなかった。
・大教室の講義をオンライン化すれば、それだけ場所のコストが浮く。浮いたリソースを、よりコストが必要なものに充てることができるようになる。
・ディスカッション形式の授業などは、現在のオンライン授業ツールだとやりにくいと思う。グループワークも同様。
・オフライン授業とのギャップに学生のフラストレーションは高まっている。
【記者からの質問】
Q. オンライン授業の試験はどのように実施していたか。授業はオンラインでも、試験は登校して行う学校もあるなど矛盾を感じる面もある。(日経HR)
・大学によって対応は異なるとは思う。従来の試験と違い、オンラインでの試験は公平性が担保されないため、本当の意味で本人の実力なのか評価する基準にはなりえない。だから課題が増える。試験に加えて課題など周辺の要素を合わせて評価していくことになる。
Q. ミネルバ大学は全授業がオンライン化しているが、討論が中心。学生の意見とは食い違うが、むしろオンライン授業はディスカッション形式にこそ向いているのでは?どこにいても誰とでも通話できるのは強みだと思うがどうか。(毎日新聞)
・オンラインでのディスカッションは、会話をしているようで実は会話になっていない。同時にしゃべれるのは一人だけで、他の参加者は聞いているだけ。つながっているようでつながっておらず、つぎはぎだらけという感じ。マイクのミュートを解除して、他と被らないように「挙手機能」を使って…とやってようやくリアクションできるので、議論のテンポも遅くなってしまう。
・オンライン授業の限界は、PCの画面に表示できるもの以外が使えないことだと思う。対面であれば手元の資料だけでなくホワイトボードなども大きく使って話ができる。もちろんPCでも同じ機能はあるが、画面の切替などがあり、やはり即応性に欠ける。ミネルバ大学はかなり設備を整えて、討論に耐えうる授業環境を構築している。それがウリ。現状、日本の一般的な大学でミネルバ大学と同じ環境を全学生に整えることは不可能だろう。
◆オンライン授業で大学が変わる~コロナ禍で生まれた「教育」インフレーション~
【書籍情報】
発売日:2021年2月22日
判型:B6判
頁数:232ページ
価格:1320円 (本体価格1200円)
ISBN:978-4-903175-99-7
【著者情報】
堀和世(ほり・かずよ)
1964年、鳥取県生まれ。東京大学教育学部卒業。89年、毎日新聞社に入社。週刊誌『サンデー毎日』に在籍し、取材、記事執筆、編集業務に携わる。2020年に退職してフリー。