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原由美子さん 原直樹さん インタビュー
金賞に輝いた原由美子さん、原直樹さんご夫妻。
絶妙なコンビネーションで撮影された受賞作『夢の機関車 想い出の旅』には
春夏秋冬、朝昼夜の温かい鉄道風景が広がっています。
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学生時代に旅先で出会い
共通の趣味で意気投合
――お二人の出会いは?
由美子:大学時代に私はサイクリング部の合宿で、彼は友だちと車で旅をしていた時に北海道で出会いました。お互い貧乏学生だったので安価なユースホステルを転々としていたら、2回も一緒になったんです。
直樹:ユースホステルでは宿泊者同士のミーティングがあったので、そこで親しくなって。リーダー同士が連絡を取り合い、東京でも会おうということになりました。
――お互い、どんなところに好感を持たれたのですか?
由美子:実は、初デートで私が大遅刻をしたんです。前日に寮で飲み会があって二日酔いで寝過ごしてしまい、3時間も遅れてフラフラの状態で待ち合わせ場所へ。でも彼はまったく怒ることもなく、すぐに寮へ送ってくれました。そんな優しいところに惹かれたんでしょうね。
直樹:私は「無事に送り届けなくては」の一心でした(笑)。その後は、二人とも美術が好きだったので、美術館にデートに行くことが多かったですね。趣味が同じとか、そういうところが合ったんだと思いますし、今の写真の制作活動にもつながっているのではないかなと。
――ご結婚のタイミングは?
直樹:年齢は妻が三つ下ですが、私が大学院に行っていたので卒業は同じ年。メカ好きの私は主に自動車部品などを製造している会社に就職し、群馬県に配属されました。その約1年後、埼玉県で講師の仕事をしていた彼女に「結婚するならこっちに来たら?」と言いました。それからは海外勤務の話なども断って、二人でずっと群馬に住んでいます。
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子どもの頃、父に買ってもらった
鉄道模型が写真の題材に
――写真はいつから始めましたか?
由美子:11年前からです。当時はガーデニングが趣味だったので、自宅の庭で花の記念写真を撮り始めました。ほどなく、“ボケ”を主役とした撮影を楽しむ写真家たちのFacebook上のグループに参加。主宰の堤一夫さんに引き立てていただき、玄光社MOOK『ボケ・フォト・ファン』のテーブルフォトページを担当しました。
直樹:アマチュアの立場では機材にあまりお金をかけられないため、当初はフルマニュアルのフィルムカメラを使っていました。オートフォーカスじゃないので、すべて自分で操作しないと動きませんから、露出の考え方やシャッタースピードなどが自然と鍛えられたんです。
――鉄道はもともと好きだった?
由美子:私は子どもの頃から“乗り鉄”。小・中学時代は休みのたびに、一人で電車に乗って従姉妹に会いに行っていました。高校から電車通学でしたが、田舎の駅は1本乗り遅れると次は1時間くらい来ない。その間、木のベンチに座ってボーッと過ごす時間が密かな楽しみでした。実家の最寄りの「西上田駅」には貨物の引き込み線があったので、貨物列車にもすごくなじみがありましたね。
直樹:小学6年生の時のクリスマスプレゼントに、父親が仕事の取引先のおもちゃ会社の鉄道模型を買ってきてくれました。それが鉄道との出会いです。中学時代は使用済みの切符のコレクションにもハマって、駅までもらいに行っていたので、私は“収集鉄”ですかね。
今から約3年前に自宅を整理していた時、父にもらった模型が出てきたんです。それまでも自宅の寝室や台所の隙間をスタジオに、小物類をたくさん撮影してきたし、ライティング機材も揃っているので、鉄道模型を撮ろうということになりました。
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二人でなければできない
撮影方法でリアリティーを追求
――第5回「日本写真絵本大賞」に応募しようと思われたきっかけは?
由美子:鉄道模型を撮り始めて1年たった頃、ライティングの先生に「とても夢のある写真だから、絵本なんかに使ってもらえるといいね」という助言をいただいていたんです。その後、SNS上のお友だちの作品が第4回「日本写真絵本大賞」の最終ノミネート作品に選ばれたというコメントを見て、そういう賞があるのなら私も作ってみようかなと。写真のストックも20枚くらいはありましたので。
――撮影でこだわった点は?
直樹:写真に透明感や奥行き感が出ないので、合成は絶対NG。ワンシャッターや長時間露光にこだわり、互いのアイデアと技術をぶつけ合って撮影方法を決めました。模型の背景はすべて自作で、私がイラストを描いたり、材料を買ってきて作成したり、実際の風景を撮ってきたり。例えば雪景色の写真はベビーパウダーを使用し、エアブロアーで雪煙を舞わせてみました。
由美子:撮り方を編み出すのは私で、それをしっかり固めていくのが彼ですね。列車の走行中の写真は流し撮りで、彼が模型と背景を動かし、私は最初の2.5秒間カメラを静止し、最後にカメラを振ります。このように私たちの撮影は、二人でなければ決してできないんです。
――物語はどのような構想から作られましたか?
由美子:ちょうどお話を作っていた時に、「令和6年能登半島地震」が起きました。私の心もすごく痛んで、被害に遭われた人でも、逆に気持ちが明るい人でも、どんな人がいつご覧になってもホッとするような作品にしたいと思いました。初めはもっと文章が長い物語風で考えていたのですが、老若男女、誰も嫌な気持ちにならず、さまざまな境遇の人たちが自分の思いを重ねて読んでいただけるように、「私」や「僕」などの一人称を設けず、短い文でつなぐことにしました。
――今後の目標を教えてください。
直樹:今回の金賞は大変ありがたくもまったくの想定外で、本当にびっくりしましたが、クオリティーの高い作品を作り続けるための大きなモチベーションになりました。私たちはすごく凝り性で、雑が苦手。アマチュアだからこそ気負うことなく、一枚一枚丁寧に、夢を紡ぐように写真を撮っていきたいです。
由美子:私たちの作品は“余韻”を一番大事にしているため、未完成で読者の方の想像に委ねる部分が大きくなっています。私たちの写真と文章を通して、皆さんが自分の好きな場所へ行き、好きな人と出会えることを願っています。
文・菅原悦子 撮影・関 眞砂子
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